【3.11原発事故10周年声明】
2021年3月11日
国・東電は、原発関連労働者の安全・健康を最優先する構造転換を行い、
全ての労災被害者に補償を行え!
被ばく労働を考えるネットワーク
私たち「被ばく労働を考えるネットワーク」は、3.11原発事故を契機に設立され、被ばく労働を余儀なくされている事故収束・廃炉作業や除染作業における労働問題に取り組んできた。3.11原発事故10周年に当たり、以下、国・東電に対して要求する。
1.福島第一原発の廃炉ロードマップの方針を転換し、長期管理を行え!
破損した原子炉の放射線環境は過酷で深刻であることが明らかになっている。国・東電が設定した40年間でのデブリ取り出しは、事実上不可能である。2019-20年に行われた1・2号機排気筒解体におけるトラブルと高所人力作業を見ても明らかなように、工程が計画通り進むことなど全く期待できず、労働者を危険に晒すだけである。
国・東電は、現在の廃炉ロードマップによるデブリの取り出しを放棄し、数百年にわたる管理・監視体制を基本とする、新たなロードマップに根本的に転換せよ。
2.労働者の安全管理を徹底し、十分な人員配置とゆとりのある作業工程を確保せよ!
2014-15年に死亡事故を含む重大労災事故が頻発した際、東電は安全よりも工程が優先されていたことを認め、ロードマップの見直しと労働環境の改善策を発表した。その直後は労災事故の減少が見られたものの、2017年以降は再び上昇している。
2014年当時、違法な長時間労働や汚染水タンクの上と下とでの同時作業など、安全性をないがしろにした現場の労働環境が問題視された。最近も以前は禁止されていた一人作業が黙認されているという相談がある。規制委員会からも、現場にゆとりがなく東電の目が行き届いていないと指摘された。
安全を最優先としたゆとりのある作業工程、労働者の配置はもとより元請および東電社員などの安全担当者、労働基準監督官らの十分な配置により、危険作業なくし働きやすい労働環境を確保せよ。
3.労働者の健康管理に責任を持ち、放射線被害の可能性がある全ての労働者に補償を行え!
原発労働で労働者が受ける低線量被ばくは、被ばくと発がんなどの関係が「しきい値なし線形仮説」に基づいて管理されており、その考え方は、被ばくの上昇とともに発症の確率が上がり、その下限のしきい値はないとするものである。すなわち、わずかでも被ばくがあれば、被害の確率が上昇するとみなしている。
これに基づいて労働者の健康管理を行うのであれば、被ばく労働を経験した全ての労働者に対して、生涯に渡る健康管理を国が責任をもって行うべきである。そのためには、労働者の被ばく管理は東電、元請業者や雇用主任せにせず、国が責任を持って一元的に行うべきである。現在、緊急作業に従事して50mSv以上の被ばくをした労働者を対象としている無料の健康診断を、希望する全ての労働者に対して行うべきである。受診自体を目的化するのではなく、診断結果に基づき治療の必要な労働者に漏れなく治療を行うとともに、診断結果を集約して現場の安全管理を見直せ。また、健康管理手帳制度の対象となっている14業務に放射線業務を加え、全ての被ばく労働従事者に健康管理手帳を発行せよ。
放射線被ばくの影響が否定できない疾病やがんの発症に対しては、国は全て労災として認定し、東電は損害賠償を行え。収束作業で白血病を発症し、労災が認定されたあらかぶさんに対して、東電および九電は原賠法に基づく損害賠償を行え。
4.重層下請構造を撤廃し、全ての労働者の雇用と労働条件について、国・東電が責任を持て!
原発が下請労働者の使い捨てにより維持されているという問題は、商業原発の稼働開始時期から指摘されている。雇用の不安定性、賃金のピンハネ、労災隠し、杜撰な被ばく管理、労働者が泣き寝入りせざるを得ない労使関係など、どれも重層下請と使い捨てが生み出すものである。
事故収束・廃炉作業は極めて重要な国家事業であり、既に東電は事実上国の管理下にある。全ての労働者の健康と安全を保障する観点からも、収束・廃炉作業に従事する労働者の、雇用と賃金をはじめとする労働条件については国・東電が責任を持て。
5.除染作業や特定線量下業務*に従事する労働者の労働条件を改善せよ!
除染労働者も、重層下請構造の下で、収束・廃炉作業と同様の理不尽な労働環境に置かれている。福島労働局の監督指導を受けた除染関連業者の60%以上に何らかの法令違反があり、常に収束・廃炉作業の違反率を上回っている。
特に、除染労働者の賃金は多くの場合に最低賃金に設定されており、国が出す特殊勤務手当(危険手当)を併せて、ようやく一般的な土建労働者と同水準の賃金になっている。除染労働は作業そのものが過酷であり、特殊勤務手当はあくまでも被ばくの危険性に対する手当であることから、現在の賃金水準は不当であり、これを認めることは元請・上位業者の中抜きを是認しているに等しい。また、このような不適切な賃金のあり方が、中間貯蔵施設関連事業や、帰還困難区域での家屋解体事業の労働者の待遇に反映している。
国は除染労働者や特定線量下業務に従事する労働者の労働条件を元請・業者に任せることなく、上記の現状を改善し、賃金の改善と働きやすい環境を保障せよ。
*特定線量下業務:2.5μSv/hを超える場所において事業者が行う除染業務以外の業務。
6.東電は下請け労働者が加入した労働組合との団体交渉に応じよ!
東電は事故を起こさなければ生じなかった作業や被ばく労働を引き起こしておきながら、廃炉作業等の発注者に過ぎないとうそぶき、下請労働者が加入する労働組合の団体交渉要求を拒否し続けている。廃炉作業の被ばく労働が原因で白血病になったあらかぶさんに対して、お見舞いの言葉一つない。やむなくあらかぶさんは民事損害賠償請求訴訟を東京地裁に提訴し、団交拒否された原発関連労働者ユニオンは不当労働行為救済申し立てを東京都労働委員会に申し立て、いずれも係争中である。
東電は下請労働者が加入する労働組合との団体交渉に応じ、問題解決を図れ。
以上